“黒富士”から世界へ——抹茶と富士市を結ぶ、若き2人の挑戦

富士山と茶畑。
その美しい景観が、静岡県富士市の魅力を象徴してきました。
ところが、近年では茶畑の減少が続き、この風景が失われつつあるといいます。
そんな中、大学時代の友人同士が立ち上がり、お茶を起点に地域の未来を描こうと、抹茶ブランドを立ち上げました。
創業からわずか1年。富士市に根ざしながらも全国、そして世界に向けた発信を視野に入れる、彼らのビジョンと行動力に迫ります。
創業から現在に至るまでの御社の歴史を少し教えていただけますか?
創業は2024年7月。まだ1周年を迎える直前という新しい企業ながら、その背景には10年以上の絆がありました。
共同代表の2人は、18歳で出会った大学の同級生。現在29歳の2人は、長年「いつか一緒に何かをしたい」と語り合いながらそれぞれの道を歩んできました。
社会人になってからは、地方を飛び回る中で日本の地域課題──高齢化、一次産業の担い手不足、人口減少──に直面。
一方は静岡県の金融機関に勤務した経験などから、地元富士市の魅力がこんなものではないと、奮起することを決意。
そこで互いに“富士市で何かできないか”と考えるようになり、静岡のお茶文化に着目します。
富士山と茶畑という日本独自の景観を守りたい。その想いから、共同代表の父親の後輩にあたる、有機抹茶に取り組む農家と出会い、意気投合。
翌年の新茶から自分たちが納得できる抹茶商品を発売し、本格的に事業がスタートしました。
素敵なご縁と想いから始まった御社のお茶づくりですが、その中で大切にされていることや、特に知ってほしい点について教えていただけますか?
私たちが大切にしているのは「生産者に光を当てる」ことです。農家さんを“アーティスト”として尊敬し、その姿勢と技術を多くの人に伝えたいと考えています。
実際に農作業に参加する中で、農家さんの知識・体力・経験のすごさを痛感しました。お茶づくりは気候や土壌に応じた繊細な調整が求められ、まさに「作品」としての価値があると感じました。
だからこそ、シングルオリジンという形で、その年ごとの風味や個性を楽しめる商品展開を目指しています。
また、ブランドの象徴的な商品である「黒富士」缶は、富士山の和菓子からインスピレーションを得て誕生しました。地元の和菓子屋と農家さんがこのブランドをきっかけにつながり、誕生したコラボレーション商品です。
お茶会の風景から得た感動をアーティストが作品にし、その絵を缶パッケージに採用。
単なる商品ではなく、富士市を語る物語としてお茶を届けています。
とても素敵な取り組みですね。お茶を通じて富士市の物語を届ける今、今後はどのような展開を考えていますか?
私たちの目標は、富士市を“お茶の街”としてブランド化することです。その一環として、将来的には富士山と茶畑を望むロケーションに「お茶のホテル」を作りたいと考えています。
現在、富士市には観光向けの滞在施設が少なく、茶畑のある風景を実際に体験できる場所が限られています。そこで、宿泊そのものを「お茶を五感で味わう体験」として再構築し、観光と地域活性化を結びつけたいと構想しています。
企業理念は「地域の価値を再定義し、未来に縁を紡ぐ」。
抹茶を通じて富士市と世界をつなぎ、
静岡東部のお茶文化を持続可能なものとして次世代へ引き継ぐ──
そんな未来に向けて、2人の挑戦は始まったばかりです。
