畳の未来を創る——280年の歴史とともに歩む「久保木畳店」の挑戦

1740年、福島県須賀川市で創業した老舗畳店・有限会社久保木畳店は、2020年代に入って大きな転機を迎えました。伝統的な畳づくりを軸にしながらも、国内外に向けて畳の新しい価値を届けるべく、海外展開・観光施設「畳ビレッジ」・銀座店の開業と、次々と新たなチャレンジを重ねています。
そして今、次なるビジョンとして構想しているのは「畳ホテル」。 長い歴史のなかで育まれた職人技と、現代に通じるデザインと価値観が融合した、畳の進化系ビジネスの最前線に迫りました。
──創業はなんと280年前とのことですね。
そうなんです。1740年に福島県須賀川市で創業しました。私たちは代々、畳とともに暮らし、日本の住文化を支えてきました。
もちろん、時代が進むにつれて畳のある生活そのものが減ってきています。でも、だからこそ今の時代に合った形で畳の良さを伝えることが、私たちの役割だと思っています。
2020年からは海外にも目を向けました。アメリカやフランス、UAEなど、現在は30カ国以上に畳を届けています。
──2023年には「畳ビレッジ」を開業されたとか。
はい。福島の工場をリノベーションして、畳を体験できる拠点をつくりました。ワークショップや工場見学、畳カフェなどを通して、五感で畳に触れてもらえるように工夫しています。オープンから1年で1万人以上の方が来てくださって、畳の可能性を改めて感じました。
2024年には東京・銀座にもお店を構え、都市部でも畳の魅力を伝えていけるように、ここから発信を続けています。
──畳をつくるうえで、大切にしていることは?
一番は、品質と価値の提供ですね。畳って、単なる床材ではなくて、空間に安らぎを与える存在なんです。
リラックス効果や香り、触感も含めて、五感に働きかける力がある。それをきちんと伝えたいと思っています。
──素材にも強いこだわりがあるそうですね。
はい。私たちが使っている熊本県産の最高級い草『ひのさらさ』は、い草全体の中でも上位0.5%の品質とされる特別な素材です。これでつくった畳は15年、美しく保てます。一般的な畳は5年ほどで傷んできますが、『ひのさらさ』は時を経て黄金色に変化していき、味わいが深まっていくんです。
──その魅力を、どう伝えているのでしょうか?
福島や銀座でのワークショップ、工場見学などを通じて、実際に体験してもらうのが一番だと思っています。また、全国の畳店向けに講演も行っていて、「畳の魅力を一緒に広めましょう」と呼びかけています。
それから、和室がない暮らしの中でも畳を楽しめるように、ランチョンマットやトレーなど、小さな雑貨にも『ひのさらさ』を使っています。ちょっとした“畳のある暮らし”を提案していきたいですね。
──今後の展望について、どのようにお考えですか?
国内市場が縮小する中で、競争よりも“市場を広げる”ことが大切だと感じています。特に海外では、まだまだ畳の文化が知られていません。たとえば、海外の日本人の方から「お茶の時間のために畳を敷きたい」というご要望をいただくこともありますので、そこから市場を広げていきたいですね。
──素材産地との関わりについても教えてください。
熊本県のい草農家さんとは毎年、田植えや収穫の時期に現地に伺い、現場の声を聞いています。い草の生産は非常に大変で、しかも儲かりにくい。少しでも力になれればと思い、一緒に取り組んでいます。
畳業界全体としても、畳の価値をもっと多くの人に再認識してもらう必要があります。これからも講演や発信を通じて、畳文化の魅力を丁寧に伝え続けていきたいと思っています。
畳は、床材というより文化そのもの。
季節ごとに色を変え、空間の空気を整え、心を落ち着けてくれる。
久保木さんの語る言葉からは、その一枚の畳に込められた哲学と情熱が伝わってきます。
280年の歴史を背負いながらも、新たな挑戦を恐れず、畳を未来へ届ける。
畳ビレッジや銀座店から広がるその活動は、日本文化のこれからを支える大きな一歩です。