220年続く畳屋の挑戦——元プロ野球選手が受け継ぐ「伝統」と「革新」
今回、抹茶セレクトショップにもご参加いただきました畳屋「中村畳工店」様にインタビューをさせていただきました。
伝統を受け継ぎながらも、畳の可能性を広げるべく、常識を覆す新商品を次々と打ち出している現8代目の中村社長に異色のキャリアと、畳に懸ける熱い想い、そして未来への挑戦について伺いました。
創業から現在に至るまでの御社の歴史を少し教えていただけますか?
はい、中村畳工店は、徳川中期にあたる西暦1800年頃の江戸時代に創業しました。初代が畳屋をはじめて、私の代で8代目となりますが、皆様のおかげで、今日まで約220年も続けることができました。
初代は青森県三戸郡五戸町上市川地区池ノ堂付近で畳屋を始め、2代目が現在の五戸町新町に移り住み、4代目で現住所である五戸町沢に移転しました。この地方では最も古い畳屋となります。
地域で最も歴史があるというのは驚きです。中村社長もすぐに家業に入られたのですか?
実は私は少し珍しい経歴でして、いきなり家業を継いだわけではなく、2005年から2007年までプロ野球チーム「北海道日本ハムファイターズ」に所属してプロ野球選手をしていました。
その後、今後の自分の働き方を考えた時に、改めて自分の腕1つで質の良い畳を納品する父親の姿を見て「これこそが自分の求めていた働き方だ」と感じ、家業を継ぐことを決心しました。
子供の頃から間近に見ていましたが、いざ現場に入ると学ばなければいけないことも多く、 たくさん社会勉強をし、父・中村勇の跡を継ぎ、8代目代表に就任しました。
小さな工房ではありますが、創業以来、丁寧に心を込めて畳を作る職人の技を受け継いでいます。
ありがとうございます。とても珍しい経歴ですね!他にはない経歴だからこそ生かされていることなどはあるのでしょうか?
そうですね。やはり野球で培った、“当たって砕けろ”精神だと思います。今までの畳の固定概念を覆すような取り組みを、批判を恐れずに挑戦できるのは全力でぶつかってきた野球における経験が大きいと思います。
例えば「畳=室内」という考えに縛られず、アウトドア用の畳ということで、車中泊用の畳“NATURE ROOM”を開発しています。ワゴン車などの後部座席に設置できる畳で、寝ることができるというものです。
他にも、畳表が緑やピンク、黒といったカラーでしたり、へりも花やドット柄といったデザインを数百種類の中から選択できるというのも、新たにチャレンジした商品になります。
時代の流れから畳の部屋が少なくなってきたため、様々な新しい取り組みで多くの人に畳の良さを感じて欲しいと考えています。
アイディアが斬新で面白いですね。畳に関して他にも知ってほしいことなどあれば教えていただけますか?
畳は奈良時代から1000年以上にわたって人々に親しまれてきた、海外にはない日本独自の文化です。
畳には様々な効果があります。畳の原料である”い草”には、湿度を調整する働きがあり、高温多湿の日本の風土・気候にあった、さまざまな機能を持っています。
また、い草の香りにはリラックス効果のある成分であるフィトンチッドやバニリンなども含まれており、精神的にとても良い気分にさせてくれます。
畳はただの床材ではなく、現代人にとって必要な要素を兼ね備えた素晴らしい素材であることを知っていただき、皆様にもう一度畳を楽しんでいただきたい、それが私の願いです。
長年受け継がれてきた畳の伝統を守りながら、野球と畳のコラボ商品、キャンプ用畳、サウナ用畳など、新しい畳商品を提案していきます。
畳の効果を知らない人も多いと思うので、とても貴重なお話です。 今後新しく取り組もうと思っていることはありますか?
より多くの人に畳を知っていただける施策を行っていきたいと考えています。現在構想しているのは、1つの建物に畳作業見学ブース、商品販売ブース、飲食スペース、宿泊施設がある複合施設「畳の家(名称未定)」の建設などを検討しています。
また、海外の皆様にも日本の文化を知っていただきたく、海外への販売展開も積極的に行っていきます。畳を通した日本文化も積極的に発信していきます。
ご回答ありがとうございました。220年という歴史の重みを背負いながらも、畳の価値を現代に、そして世界へと発信し続ける中村畳工店。
伝統を守りつつ、時代に合わせて進化させる信念のもと、畳の可能性を広げ続ける中村社長の姿勢からは、日本文化がこれからも人々の暮らしに寄り添い続けるヒントが見えてくるように感じました。
畳の温もりが、これからどのように世界を包み込んでいくのか──その未来がとても楽しみです。